富士山麓には、昔の火山活動により他の場所では見られない独特の草原環境が広がっています。富士山には、この環境に適応している草原性の蝶を多く観察することができます。草原性の蝶は、草原環境の消滅とともに全国的に数を減らしており、この富士山麓で観察できる草原性の蝶は全国的に見ても貴重な蝶が多く含まれています。
この記事では、これまでに富士山麓で観察した蝶を紹介します。
富士山の環境
富士山麓の環境
本栖高原と梨が原はともに富士山麓に位置し、草原の環境が維持されています。富士山には”高山蝶”は1種類も生息していませんが、クロシジミやゴマシジミ、ヤマキチョウ、ヒメシロチョウなど、全国的にも非常に貴重な草原性の蝶が多く生息しています。
特に梨が原で見られる本州中部亜種のゴマシジミは、いわゆる種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)で指定されている極めて絶滅の可能性が高い種となります。環境省レッドリスト2020においても、絶滅危惧IA類(CR)に分類されており、「ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの」とされています。
現在の富士山の草原の環境は、火入れ(山焼き)などにより人為的に残されており、人の手が入らなくなれば森林となり、現在の環境は消滅してしまうと言われています。
山頂付近の環境
日本には”高山蝶”と呼ばれる標高の高い場所に生息する蝶が何種類か知られています。例えば、ベニヒカゲやクモマベニヒカゲ、ミヤマモンキチョウなどです。ですが、富士山は日本で一番高い山ですが、これらの高山蝶は生息していません。
高山蝶は、氷河期に日本列島で分布を広げ、その後の温暖化で生息地を標高が高い場所に移してきました。おそらく、以前は富士山にも高山蝶が生息していたと考えられますが、その後の富士山の噴火により滅亡してしまった可能性が考えられます。
富士山で観察できる珍しい蝶
ヒメシロチョウ
ヒメシロチョウは梨が原で多く生息しています。ヒメシロチョウはクロシジミと同様に環境省レッドリスト2020で絶滅危惧IB類(EN)に分類され、「ⅠA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの」とされている貴重な蝶です。
ヤマキチョウ
本栖高原ではヤマキチョウも観察することができます。ヤマキチョウは環境省レッドリスト2020で絶滅危惧IB類(EN)に分類されており、「ⅠA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの」とされている貴重な蝶です。この時は、ご一緒させていただいた方がヤマキチョウを捕獲したため、その写真を撮らせていただきました。
キマダラモドキ
キマダラモドキも梨が原に生息する貴重な蝶の1種です。こちらは環境省レッドリスト2020で準絶滅危惧(NT)に分類され、「現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種」とされています。地味な蝶(?)ですが、生息地は局地的ですので、どこでも見られる蝶ではありません。
ミヤカマラスシジミ
ミヤマカラスシジミは本栖高原では比較的よく見る蝶です。この日は梨が原でも観察することができました。まだ時期が少し早かったのか、これまでと比較すると数はそれほど多くありませんでした。
クロシジミ
まずは本栖高原などで観察できるクロシジミです。クロシジミは環境省レッドリスト2020で絶滅危惧IB類(EN)に分類され、「ⅠA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの」とされている貴重な蝶です。これまでには、この場所以外に、三重県の鈴鹿山脈の石榑峠周辺で本種を観察しています。
ゴマシジミ
次に梨が原で観察できるゴマシジミです。上にも記載しましたが、梨が原で見られる本州中部亜種のゴマシジミは、いわゆる種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)で指定されている極めて絶滅の可能性が高い種となります。環境省レッドリスト2020においても、絶滅危惧IA類(CR)に分類されており、「ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの」とされています。
ホシチャバネセセリ
ホシチャバネセセリは環境省レッドリスト2020で準絶滅危惧(NT)に分類され、「現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種」とされています。
ホシチャバネセセリは全国的に減少が著しく、なかなか見られない蝶ですが、本栖高原には比較的多くの数が生息しています。この日も多くのホシチャバネセセリを観察することができました。非常に小さいサイズのセセリチョウで、俊敏に飛ぶので、追いかけるのは大変ですが、よく花に吸蜜に来ますので撮影はそれほど難しくはありません。
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