- 蛾と蝶の違いを知りたい
- 蛾に間違えられる蝶はいるの?
蝶と蛾の違いは、蝶に関するよくある質問の1つです。この記事では、蝶と蛾の違いと、蛾に間違えられやすい蝶を紹介します。
一般的に、蝶と蛾の違いは以下であると言われています。
- 蝶は美しくて、蛾は毒々しい(地味な)模様をしている。
- 蝶は昼に飛んで、蛾は夜に飛ぶ。
- 触覚の先端の形状が違う。具体的には、蝶は触覚の先端がマッチ棒のように膨らんでいる(棍棒状)のに対して、蛾は先端が細くなっていたり櫛歯状になっていたり毛が生えていたりする。
ではここで質問です。以下の写真の昆虫は蝶でしょうか?それとも蛾でしょうか?
これは「ヒメウラナミジャノメ」というタテハチョウ科のジャノメチョウ亜科に分類される蝶です。ジャノメチョウ亜科に分類される蝶はよく蛾に間違えられます。それは、ジャノメチョウ亜科の蝶が「地味な模様をしている」ことと、「翅を広げて止まることがある」ことに理由があると考えらます。また、活動時間帯が夕方であり、薄暗くなってから飛ぶため蛾と間違える方が多いのかもしれません。
結論から言うと、蝶と蛾の分類は明確ではありません。昼間に飛ぶ蛾もいれば、毒々しい模様をした蝶もいます。この記事では、蝶と蛾の違いや見分け方と、その例外について解説をします。
蝶と蛾の分類
まずは、蝶と蛾がそもそもどのような一群に属しているのかを整理します。
蝶と蛾は同じ鱗翅目(りんしもく)というグループに属しています。
鱗翅目の特徴としては、魚の鱗のような粉(鱗粉)を持っていること、幼虫と成虫で姿形が全く異なる完全変態昆虫であること、成虫になる前段として幼虫(イモムシ・ケムシ)や蛹の時期があるということなどが挙げられます。
この鱗翅目の中では、圧倒的に蛾の方が種類が多いという特徴もあります。系統的に見てみると、蛾のグループの一部が蝶であるという言い方もできます。
蝶と蛾の違い
前段が長くなりましたが、ここで本題に入ります。上では、蝶と蛾の違いの一般的なイメージとして、以下3点を挙げました。
- 蝶は美しくて、蛾は毒々しい(地味な)模様をしている。
- 蝶は昼に飛んで、蛾は夜に飛ぶ。
- 触覚の先端の形状が違う。具体的には、蝶は触覚の先端がマッチ棒のように膨らんでいる(棍棒状)のに対して、蛾は先端が細くなっていたり櫛歯状になっていたり毛が生えていたりする。
これらについて、1つずつ解説をします。
【違い①】蝶は美しくて蛾は毒々しい(地味な)模様をしている
美しさの感覚は人によって異なりますので一概には言えませんが、一般論として蝶が色鮮やかで、蛾は毒々しい傾向にあることは確かです。
一方で、例外も多くあります。例えば、蝶の中でもジャノメチョウ亜科の蝶やセセリチョウ科の蝶は、毒々しいとまで言わないまでも非常に地味な模様をしていて、蛾だと感じる人もいます。ですが、これらは蝶に分類されます。
逆に、アゲハモドキという蛾は、アゲハチョウ科の蝶に非常に良く似ており、綺麗な模様をしています。国内では、オオミズアオという蛾も美しくて人気のある蛾です。
また、海外では金属光沢を帯びた模様を持つ蛾(例えばニシキオオツバメガ)が生息しており、”毒々しい”や”地味”とは無縁の模様をしています。
この様に例外は多く存在しますが、一般論としては、蝶は美しく、蛾は毒々しい模様をしている傾向があります。
【違い②】蝶は昼に飛んで、蛾は夜に飛ぶ
一般論として、蝶は昼に飛んで、蛾は夜に飛びます。特に日本に限れば、蝶は例外なく昼間に飛びます。
一方で、海外には例外もあります。海外にはシャクガモドキという種類の蝶がいますが、この蝶は夜行性です。この蝶は、以前は蛾として分類されていましたが、卵、幼虫、蛹、成虫の外部形態を詳細に研究した結果、アゲハチョウ上科の姉妹群として分類、つまり蝶として分類されることになりました。また、日本に生息するイカリモンガという蛾は、昼間に飛びます。
この様に、例外は一定数存在しており、蝶は昼行性、蛾は夜行性と一概に言うことはできませんが、一般論としては、蝶は昼に飛んで、蛾は夜に飛びます。
【違い③】触覚の先端の形状が違う
蝶は触覚の先端がマッチ棒のように膨らんでいる(棍棒状)のに対して、蛾は先端が細くなっていたり櫛歯状になっていたり毛が生えていたりするというのは、多くの場合で当てはまります。
一方で例外もあります。例えば、上で記載したシャクガモドキ科の蝶は、多くの蝶が持つ棍棒状の触覚ではなく、一部のガに似て細く尖った触覚をしています。
大多数の蝶と蛾は触覚で分類ができますが、一部例外が存在するというのもまた事実です。
(参考)「蝶は翅を閉じて止まり、蛾は翅を広げて止まる」は正しいか?
蝶と蛾の違いについて、多くの方は「蝶は翅を閉じて止まり、蛾は翅を広げて止まる」と認識しています。ですが、これは例外が非常に多いため、一般論としても正しくありません。
蝶の中にも、翅を広げて止まる種が非常に多くいます。特に、早朝に蝶が体温を上げるため日光浴をするときは翅を広げて止まります。
一方で、イカリモンガという蛾は翅を閉じて吸蜜します。
この様に、多くの例外がありますので、「蝶は翅を閉じて止まり、蛾は翅を広げて止まる」は信じすぎない方がよいと考えています。
【結論】蝶と蛾の違いは明確なのか?
蝶と蛾の一般的な違いは分かったけど、例外もあった。蝶と蛾は明確には分けられないということ?
結論としては、蝶と蛾の違いは学術的には明確ではありません。
以前は、セセリチョウ上科(セセリチョウ科)とアゲハチョウ上科(アゲハチョウ科、シロチョウ科、シジミチョウ科、タテハチョウ科)が蝶で、それ以外は全て蛾と分類されていました。
その後、上で紹介したシャクガモドキという種の詳細な調査を行い、蝶として分類すべきとの見解が示された頃から蝶の分類学の認識が高まり、その後各種研究や調査が行われていますが、今日に至るまで完全には解決していません。
ですが、この記事で紹介した蝶と蛾の違いは、多くの場合で当てはまりますので、一般的な知識としては上で紹介した3点を押さえておくようにしましょう。
なお、豊里ゆかりの森昆虫館では、チョウとガの違いについては以下の通り紹介されています。
チョウとガは、ともに鱗翅目に属する昆虫です。ハネにウロコのように鱗粉がきれいにならんでいます。一般的に昼間飛ぶきれいなものをチョウ、夜飛ぶあまりきれいでないものをガというようですが、チョウとガの間には本質的な違いはありません。触角の形にしても、止まり方にしても例外がたくさんあるのです。鱗翅目の多数の上科(科の上の単位)のうち、セセリチョウ上科とアゲハチョウ上科に含まれるものをチョウと言い、残りをガと呼んでいます。ちなみにドイツ語やフランス語ではチョウとガは区別していません。
豊里ゆかりの森昆虫館内のチョウとガの違いに関する説明文
また、1904年に出版された日本蝶類図説(宮島幹之助)では、蝶と蛾の違いについて以下の通り記載されています。
蝶と蛾との別
次に鱗翅類の亜目たる蝶類と蛾類とは通常人の考ふるが如く其區分確然たるものにあらず。一般に蝶と蛾との別として列記せらるる諸㸃中識別の目標となし難しきものもあり。
宮島幹之助(1904)『日本蝶類図説』.
蛾と間違えられる蝶の紹介
身近な場所で確認できる蝶の中で、よく蛾と間違われる蝶を紹介します。
ヒメウラナミジャノメ
上でも紹介したヒメウラナミジャノメは、近所の公園などにもよく生息している蝶です。見た目が地味で、翅を広げて止まることもあるため、蛾と間違う人は多くいます。
ウラジャノメ
ジャノメチョウの仲間はどれも見た目が地味で、蛾と間違う人は多いです。ウラジャノメは蛇の目の模様が多い蝶で、生息地も暗い場所が多いので蛾と間違う人も多くいると思われます。
イチモンジセセリ
イチモンジセセリも身近な場所に生息する蝶で、とく蛾と間違われます。イチモンジセセリはセセリチョウ科に属しますが、セセリチョウ科の蝶はどれもこの様な翅の形をしており、蝶に詳しくない人はよく蛾と間違えます。
ダイミョウセセリ
ダイミョウセセリは、セセリチョウ科の蝶の中でも最も頻繁に蛾と間違われる蝶です。その理由として、ダイミョウセセリは基本的に翅を広げて止まることが挙げられます。「翅を広げて止まる=蛾」という認識でいると間違えてしまいますので、注意が必要です。
蝶と蛾の違いの結論
この記事では、蝶と蛾の違いを紹介しました。結論としては、蝶と蛾の違いに関しては、今日に至るまで各種研究や調査が進められていますが、学術的な違いはありません。
ですが、一般論として以下3点を押さえておけば、蝶と蛾は概ね分類できます。
- 蝶は美しくて、蛾は毒々しい(地味な)模様をしている。
- 蝶は昼に飛んで、蛾は夜に飛ぶ。
- 触覚の先端の形状が違う。具体的には、蝶は触覚の先端がマッチ棒のように膨らんでいる(棍棒状)のに対して、蛾は先端が細くなっていたり櫛歯状になっていたり毛が生えていたりする。
コメント