東京都は高度経済成長時に都市化が急激に進行し、多くの里山環境が消失したことで、個体数が急激に減少した蝶や、絶滅した蝶は少なくありません。
東京都レッドリスト(本土部)2020では、絶滅と判断された蝶が14種類、絶滅危惧ⅠA類が3種類、絶滅危惧ⅠB類は8種類が掲載されています。この記事ではこれらの蝶を紹介します。
東京都で絶滅した14種類の蝶
ギフチョウ
ソメイヨシノの開花とほぼ同時期に成虫が発生し、春にだけ見られる日本を代表する蝶の1種(日本の固有種)です。「春の女神(スプリング・エフェメラル)」と呼ばれ、度々メディアにも登場します。
明治16年(1883年)に初代名和昆虫研究所所長の名和靖さんが学会に紹介し、岐阜県でこの蝶が得られたため、ギフチョウと名付けられました。昔は「ダンダラチョウ」とも呼ばれていました。
成虫は10時頃から飛翔を開始し、カタクリやタチツボスミレ等の丈の低い花を好んで吸蜜します。
高度経済成長期以降、急激に数を減らしており、1973年頃までは八王子市高尾山一帯の小仏峠・景信山・御殿峠に生息するなど、南関東でも広い範囲で生息していましたが、現在は南関東では神奈川県の一部にしか生息していません。
都内での状況~東京都レッドデータブック(本土部)2023より~
かつて八王子市、町田市に生息していたが絶滅した。継続的な記録は1971年までで、1985年の高尾山の記録は放チョウの可能性が高い。また、2017年5月に稲城市で1♂の記録(他に別個体も観察)もあるが、時期を考えても自然発生とは考え難く、人為的に放された個体であろう。2020年4月にも八王子市で記録(未発表)があるが、人為的な移入または神奈川県側の生息地からの飛来が考えられる。山階鳥類研究所から東京大学総合研究博物館に移管された戦前の渋谷ラベルの標本が現存するが、自然発生個体か不明なために本稿では取り扱わない。
ヒメシロチョウ
分布 | 北海道、本州、九州 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年3回程度 |
成虫が見られる時期 | 4月から9月頃まで |
越冬の状態 | 蛹で越冬 |
食草 | ツルフジバカマなど |
亜種 | なし |
ヒメシロチョウは北海道、本州、九州に生息しています。生息地は局地的で、草地環境の悪化により絶滅した地域もあり、全国的に絶滅が危惧されています。成虫は年3回程度の発生で、第1化は4月頃から羽化し、第3化が9月頃まで見られます。
日中に活発に活動し、草地の周辺を緩やかに飛翔します。モンシロチョウと比較すると小さく、飛翔も緩やかであることから、飛翔中でも見分けることができます。北海道に生息するエゾヒメシロチョウとは見た目が非常に良く似ており、生息地が重なることもあるため、同定には注意が必要です。
都内での状況~東京都レッドデータブック(本土部)2023より~
かつて奥多摩町に生息していたが、1989年以降記録なし。発生地では近年の調査でも再確認できていない。なお、1950年代に八王子市、1970年代にあきる野市と日の出町、瑞穂町に各1例の偶産記録がある。
クロシジミ
分布 | 本州、四国、九州 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | クヌギ、コナラなど |
亜種 | なし |
クロシジミは生息数が激減し、生息地が局地的となっており、現在は絶滅が危惧される蝶の1種です。成虫は1年に1回の発生で、7月から8月頃に見られます。日中、オスは草原の上を俊敏に飛翔して、メスは低い場所をゆっくりと飛びます。ヒメジョオンなどの花の蜜を良く吸う姿が見られます。
都内での状況~東京都レッドデータブック(本土部)2023より~
都内では21市区町に記録があるが、区部は1960年代、多摩地区は1970年代までにほぼ絶滅し、東大和市の1990年の記録が東京都最後の記録となる。
シルビアシジミ
分布 | 本州、四国、九州 |
生息環境 | 平地 |
発生回数 | 年4回程度 |
成虫が見られる時期 | 4月から11月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | ミヤコグサ、シロツメクサなど |
亜種 | なし |
シルビアシジミは本州と四国、九州に生息しますが、生息地は極めて局地的で、個体数も多くないため、絶滅が危惧される蝶の1種です。成虫は4月頃から11月頃まで観察することができます。
幼虫の主な食草はミヤコグサですが、兵庫県に生息する個体はシロツメクサを食べます。ミヤコグサを食草とする個体は草地環境の悪化により全国的に減少していますが、シロツメクサを食草とする個体は安定して生息しています。
ヤマトシジミと見た目は非常に良く似ますが、ヤマトシジミは平地で一般的なのに対して、シルビアシジミは極めて局地的にしか生息しませんので、普段見られるのはヤマトシジミであることがほとんどです。
都内での状況~東京都レッドデータブック(本土部)2023より~
都内ではあきる野市、八王子市、昭島市、立川市、日野市、三鷹市、府中市、世田谷区、江戸川区から記録があるが、多くの産地が1950年代後半〜 60年代半ばまでに絶滅。1967年の昭島市の記録が最後となる。
ヒメシジミ
分布 | 北海道、本州、九州 |
生息環境 | 草原 |
発生回数 | 年1回程度 |
成虫が見られる時期 | 6月から7月頃 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | オオヨモギなど |
亜種 | 北海道亜種、本州・九州亜種 |
ヒメシジミは北海道と本州、九州に生息する蝶で、四国や沖縄には生息していません。北海道では平地でも見られますが、本州では比較的標高の高い草原に生息する蝶です。草原の環境の悪化により絶滅してしまった場所も少なくありません。
ヒメシジミは産地による個体差が大きい蝶で、北海道に生息する亜種と、本州や九州に生息する亜種の2種類の亜種に分類されます。また、同じ地域に生息するものでも個体差が大きいです。
見た目がよく似た種として、ミヤマシジミとアサマシジミがいますが、この3種の中ではヒメシジミが最も小型です。また、ミヤマシジミはヒメシジミと比較すると標高が低い河川敷などにに生息するため、生息環境でも概ね見分けることができます。
都内での状況~東京都レッドデータブック(本土部)2023より~
都内では奥多摩町、檜原村、青梅市に記録がある。また、宮野浩二コレクションの中から1965年に日の出町で採集された標本も見出されている。一時は都内で絶滅したものと思われていたが、1983年に檜原村西原峠で再発見された。その後は1988年の記録を最後に確認は途絶えている。
ミヤマシジミ
分布 | 本州 |
生息環境 | 河川敷など |
発生回数 | 年4回程度 |
成虫が見られる時期 | 5月から10月頃 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | コマツナギなど |
亜種 | なし |
ミヤマシジミは絶滅した地域が多く存在し、現在は生息地が限られる珍しい蝶です。ヒメシジミやアサマシジミと良く似ますが、ミヤマシジミはこれらと違い年に複数回世代交代を行う多化性の蝶です。季節的な変異があり、第1化の春型は大型となり、それ以降は小さくなる傾向があります。地理的な変異や個体差による変異もあり、亜種の分類には意見が分かれることがあります。
都内での状況~東京都レッドデータブック(本土部)2023より~
都内では八王子市、立川市、日野市、武蔵野市、杉並区、世田谷区、文京区から記録がある。日野市、 立川市は少なくとも1950年代まで継続的に発生していたが、他は基本的に散発的な記録のみで、1967年の八王子市が自然発生の最後の記録と思われる。1970年代の文京区からの記録は明らかな人為的導入による発生。1987 年10 月に世田谷区の多摩川沿いから記録があり、おそらく人為的放チョウ由来による一時発生と思われるが、もし自然個体群ならば本記録が自然発生最後のものとなる。
アサマシジミ
分布 | 北海道、本州 |
生息環境 | 山地など |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 6月から7月頃 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | ナンテンハギなど |
亜種 | 北海道亜種、本州中部高山帯亜種、本州中部低山帯亜種 |
アサマシジミはかつては以下の3種類に分類されていましたが、現在は全てアサマシジミとなっており、この3種はそれぞれ亜種として分類されています。
- イブリシジミ(イシダシジミ):現在は北海道亜種とされる。
- ヤリガタケシジミ:現在は本州中部高山帯亜種とされる。
- アサマシジミ:現在は本州中部低山帯亜種とされる。
成虫は年1回の発生で、6月から7月頃にかけて見られます。分布は北海道と本州ですが、北海道の生息地は壊滅的な状況で、本州の生息地でも生息数は激減しています。
近縁種としてヒメシジミとミヤマシジミがおり、この中ではアサマシジミが一番大きくなります。特に本州中部低山帯亜種が大型となります。
都内での状況~東京都レッドデータブック(本土部)2023より~
都内では奥多摩町、檜原村、八王子市陣馬山に記録があるが、奥多摩町は1960年代、檜原村は1970年代を最後に絶滅。八王子市の継続的な記録は1979年まで。他は散発的な記録があるのみ。
ウラギンスジヒョウモン
分布 | 北海道、本州、四国、九州 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 6月から10月頃まで |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | タチツボスミレなど |
亜種 | なし |
ウラギンスジヒョウモンは北海道から九州まで広く日本に分布する蝶で、主に草原に生息します。成虫は年1回の発生で、6月頃に羽化しはじめ、その後7月下旬頃から夏眠に入り、9月頃になると活動を再開します。草原環境の悪化により全国的に生息数が減少しており、現在は絶滅が危惧される蝶の1種です。
活動時間は主に日中で、俊敏に飛翔し、花の蜜を吸うほか、地面から吸水することもあります。
都内での状況~東京都レッドデータブック(本土部)2023より~
都内では多摩西部の丘陵・山地を中心に生息していたが、1990年代から記録が激減し、2000年以降は確かな記録がない。
コヒョウモンモドキ
分布 | 本州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | クガイソウ、ヒメトラオノなど |
亜種 | なし |
コヒョウモンモドキは日本では中部と関東地方にのみ生息します。かつては東北地方でも記録がありますが、現在は生息していません。比較的標高が高い場所に生息する蝶ですが、草原環境の減少やシカによる食害などで絶滅した地域も少なくありません。個体数を減らしており、絶滅が危惧される蝶の1種です。
成虫は年1回の発生で、7月から8月にかけて観察することができます。日中、低い位置を緩やかに飛び、花の蜜をよく吸います。
都内での状況~東京都レッドデータブック(本土部)2023より~
東京では、雲取山麓の長沢谷、七ツ石山などに数例の古い記録があるが、いずれも単発記録に留まり、奥秩父山塊方面からの飛来個体またはその一時発生の可能性が高い。最近の記録は1981年に奥多摩町日原にて6♂(6月11日)の記録がある。山梨県東部地域や埼玉県を含む周辺地域でも絶滅していることから、都内でも絶滅しているものと判断した。
オオウラギンヒョウモン
分布 | 九州以外のほとんどの地域で絶滅 |
生息環境 | 草原 |
発生回数 | 九州では年2回 |
成虫が見られる時期 | 6月頃から9月頃まで |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | スミレ科の植物 |
亜種 | なし |
かつては本州や四国、九州に分布していて、ウラギンヒョウモンよりも普通に見られることもある蝶でしたが、現在では九州以外のほとんどの地域で絶滅してしまいました。日本で最も減少した蝶と言われています。
オオウラギンヒョウモンは草刈りを定期的に行っている草原環境に生息していますが、開発や管理放棄により環境が変わり、大きく減少したと考えられています。
都内での状況~東京都レッドデータブック(本土部)2023より~
都内では青梅市、多摩市、清瀬市、武蔵野市、三鷹市、町田市、練馬区、杉並区、世田谷区、中野区、渋谷区、目黒区から記録があるが、いずれも散発的で1960年代以前の記録で、都内からは絶滅している。
チャマダラセセリ
※現在情報整理中
都内での状況~東京都レッドデータブック(本土部)2023より~
東京都では1883年4月と1894年7月に採集された明治期の標本2頭が知られる。ラベルには Tokyo のみで、詳細な採集地は不明。
ホシチャバネセセリ
分布 | 本州・対馬 |
生息環境 | 山地の草原 |
発生回数 | 年1回程度 |
成虫が見られる時期 | 7月頃から8月頃まで |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | オオアブラススキなどのイネ科の植物 |
亜種 | なし |
ホシチャバネセセリは年1回の発生で、7月から8月頃に成虫が見られます。山地の草原などに生息しますが、個体数の減少が著しく、絶滅した場所も多くあります。日本では本州と対馬に生息し、本州では青森県から山口県まで分布は広いのですが、生息地は局地的です。生息地は残りわずかとなっている貴重な蝶です。
小さい種類が多いセセリチョウ科の蝶の中でもひときわ小さく、すぐに見失ってしまいます。花をよく訪れ、花の蜜をよく吸います。
都内での状況~東京都レッドデータブック(本土部)2023より~
東京では奥多摩町、檜原村に記録があるが、いずれも散発的な記録が1960年代までにあるに過ぎない。
コキマダラセセリ
分布 | 北海道・本州 |
生息環境 | 低山地・山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | ススキなど |
亜種 | なし |
コキマダラセセリは北海道と本州に生息するセセリチョウ科の蝶です。北海道では各地で普通に見られ、最も普通に見られるセセリチョウ科の蝶です。本州では草地の管理放棄などにより減少している地域もありますが、全国的にはまだ普通に見られます。北海道では平地に生息しますが、本州では主に山地に生息します。
成虫は年1回の発生で、7月頃から8月頃に見られます。俊敏に飛翔し、花の蜜をよく吸います。また、地面から吸水する姿や、獣糞の汁を吸う姿も見られます。
見た目がよく似た種として、ヒメキマダラセセリやアカセセリ、キマダラセセリがおり、同定には注意が必要です。
都内での状況~東京都レッドデータブック(本土部)2023より~
東京都では奥多摩町、檜原村、青梅市、八王子市から記録があった。青梅市では1978年まで、檜原村では1991年までの記録。奥多摩町では1950 〜 80年代の散発的な記録、八王子市では1950年代は毎年のように記録があり、定着していた可能性がある。その後は1980年代までの散発的な記録のみ。また、檜原村の2007年の記録は、山梨県からの飛来個体の可能性もある。2000年代に練馬区で確認されたことが示されている文献もあるが、おそらくヒメキマダラセセリの誤記と思われることから、ここでは本記録を取り扱わない。
アカセセリ
分布 | 本州 |
生息環境 | 山地の草原 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | ヒカゲスゲなど |
亜種 | なし |
アカセセリは本州のみに生息する特産種です。主に中部地方の山地の草原に生息しますが、栃木県や新潟県、富山県などでも局地的に生息地があります。草原環境の悪化により全国的に減少が著しく、絶滅が危惧される蝶の1種です。
日中に草原を俊敏の飛び回り、花の蜜をよく吸います。また、路上で吸水する姿や獣糞の汁を吸う姿も見られます。
似た蝶としてはヒメキマダラセセリとコキマダラセセリがいますが、翅の裏面の模様が異なりますので、見分けるのはそれほど難しくはありません。
都内での状況~東京都レッドデータブック(本土部)2023より~
東京都では1932年に八王子市から1♀と1963年に奥多摩町から1♂の記録があるのみ。ただし、本種は真夏に発生するにも関わらず、八王子市の記録は6月に採集されていることから誤同定の可能性が高いと判断し、本稿では分布図に反映していない。また、2010年8月に千代田区から2♂の記録もあるが、これは植栽による移動や放チョウなどに由来する人為的導入と推定されている。
東京都で絶滅危惧ⅠA類の3種類の蝶
ツマグロキチョウ
分布 | 本州、四国、九州 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年3~4回 |
成虫が見られる時期 | ほぼ周年 |
越冬の状態 | 成虫で越冬 |
食草 | カワラケツメイ、アレチケツメイなど |
亜種 | なし |
ツマグロキチョウは本州、四国、九州に生息します。かつては普通に見られた蝶ですが、環境悪化により生息数が減少し、現在は絶滅が危惧される蝶です。成虫は年3~4回程度発生し、第1化(夏型)は5月頃から発生し始めます。
キタキチョウと見た目がよく似ており、分布も重なることがあるため、同定には注意が必要です。特に夏型は見た目がよく似ます。
アサマイチモンジ
分布 | 本州 |
生息環境 | 平地、低山地 |
発生回数 | 年3回程度 |
成虫が見られる時期 | 5月から10月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | スイカズラ、タニウツギなど |
亜種 | なし |
アサマイチモンジは日本の固有種で、本州にのみ生息します。本州では青森県から山口県まで広く分布しますが、近縁種のイチモンジチョウと比べると個体数は少なく、分布も局地的です。発生は基本的に年3回で、5月から10月頃まで観察できます。
成虫は日中、低い場所を緩やかに飛翔し、花の蜜をよく吸います。
スジグロチャバネセセリ
分布 | 北海道・本州・四国・九州 |
生息環境 | 低山地・山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | ヤマカモジグサ、カモジグサなど |
亜種 | 名義タイプ亜種、四国亜種 |
スジグロチャバネセセリは北海道から九州まで広く日本に分布しますが、生息地は局地的で、生息環境に悪化により個体数が減少しており、絶滅が危惧される蝶の1種です。成虫は1年に1回の発生で、7月頃から8月頃にかけて見られます。
非常に俊敏に飛翔し、ヒメジョオンやアザミなどの花の蜜を吸うほか、地面から吸水する姿も見られます。
見た目がよく似た種としてはヘリグロチャバネセセリがおり、同定には注意が必要です。ヘリグロチャバネセセリよりスジグロチャバネセセリの方が個体数の減少が進んでいます。
東京都で絶滅危惧ⅠB類の8種類の蝶
スジボソヤマキチョウ
分布 | 本州、四国、九州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | ほぼ周年 |
越冬の状態 | 成虫で越冬 |
食草 | クロウメモドキ、クロツバラなど |
亜種 | なし |
スジボソヤマキチョウは、本州から九州まで広く日本に分布します。主に山地に生息し、平地ではあまり見られません。成虫は年1回の発生で、6月頃から羽化しはじめ、短い期間活動したあと夏眠に入り秋にまた活動を再開します。
活動時間は主に日中で、緩やかに飛翔し、花の蜜を吸うほか、地面から吸水する姿も見られます。
近縁種のヤマキチョウと見た目がよく似ますが、ヤマキチョウは生息環境の悪化により個体数が激減しているのに対して、スジボソヤマキチョウは山地では比較的よく見られます。
ヤマキチョウ
分布 | 本州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | ほぼ周年 |
越冬の状態 | 成虫で越冬 |
食草 | クロツバラなど |
亜種 | なし |
ヤマキチョウは日本では本州にのみ生息する蝶で、長野県・山梨県を中心とする中部地方と東北地方の一部にのみ生息します。近年は生息環境の悪化により個体数を減らしており、絶滅が危惧されています。成虫は年1回の発生で、7月頃から羽化が始まります。成虫のまま越冬し、翌年の春に再度活動を開始するため、ほぼ周年で成虫を観察することができます。
活動時間はおもに日中で、緩やかに飛翔し、花の蜜をよく吸います。
ムモンアカシジミ
分布 | 北海道、本州(局地的) |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | オスは7月中旬から8月頃。メスは9月頃まで見られる。 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | クヌギ、カシワ、ブナなど。終齢幼虫はアブラムシなどを食べる半肉食性。 |
亜種 | なし |
ムモンアカシジミはゼフィルスの1種で、その名の通り、紋が無いアカシジミです。近縁種のアカシジミやウラナミアカシジミは、オスの活動時間が夕暮れ時なのに対して、ムモンアカシジミは正午前後に活動します。メスは飛ぶことが少なく、下草などでじっとしていることが多いです。
ムモンアカシジミの幼虫はアブラムシなどを食べる半肉食性であり、特殊な生態を持つことから生息域が局地的で、簡単に観察できる蝶ではありません。
カラスシジミ
分布 | 北海道、本州、四国、九州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 6月から7月頃 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | ハルニレ、スモモなど |
亜種 | なし |
カラスシジミは成虫が年に1回発生し、6月から7月頃に見られます。北海道では平地から山地にかけて比較的良く見られます。本州以南では主に山地に生息します。日中は休んでいることが多く、主に夕方に活発に活動します。飛び方はとても俊敏で、栗の花やヒメジョオンの花などの蜜を吸います。
幼虫はハルニレやコブニレなどのニレ科のはを食べますが、スモモなどのバラ科の植物の葉を食べることもあります。
見た目が似た種として、日本にはベニモンカラスシジミとミヤマカラスシジミが生息します。
ギンボシヒョウモン
分布 | 北海道、本州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から9月頃まで |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | イブキトラノオ、タチツボスミレなど |
亜種 | なし |
ギンボシヒョウモンは日本では北海道と本州に生息し、北海道では平地と山地に生息し、本州では基本的に標高1,000m以上の山地の草原に生息します。ヒョウモンチョウ類の中では特にウラギンヒョウモンと見た目や生息地がよく似ており、見間違えることがよくあります。花の蜜を吸う姿がよく見られます。成虫は年1回の発生で、7月頃に発生し、9月頃まで見られます。
ツマジロウラジャノメ
分布 | 北海道、本州、四国 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年3回 |
成虫が見られる時期 | 6月から9月頃まで |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | ヒメノガリヤスなどのイネ科の植物 |
亜種 | 名義タイプ亜種、本州亜種、四国亜種 |
ツマジロウラジャノメは、その名の通り。翅の端に白い模様があるジャノメチョウです。本州以外にも北海道や四国に生息していて、北海道産は名義タイプ亜種、本州産は本州亜種、四国産は四国亜種とされており、北海道に生息する名義タイプ亜種はエゾツマジロウラジャノメと呼ばれることもあります。寒冷地の個体は暖地の個体と比べて小型になる傾向があります。
キバネセセリ
分布 | 北海道・本州・四国・九州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月頃から8月頃まで |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | ハリギリ |
亜種 | なし |
キバネセセリは北海道から九州まで広く日本に分布します。北海道や本州の東北から中部地方では比較的よく見られますが、それ以外の地域では個体数の減少が著しく、観察できる機会は限られます。
成虫は年1階の発生で、7月頃から8月頃まで見られます。主に山地に生息し、♂は地面で吸水したり、獣糞の汁を吸う姿がよく見られます。♀は花の蜜をよく吸います。
日本にはキバネセセリと同じ亜科としてアオバセセリ、オキナワビロウドセセリ、テツイロビロウドセセリの4種類が生息していますが、見た目が似ているわけではないため、キバネセセリを見分けるのは容易です。
ヘリグロチャバネセセリ
分布 | 北海道・本州・四国・九州 |
生息環境 | 低山地・山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | カモジグサ、ヤマカモジグサなど |
亜種 | なし |
ヘリグロチャバネセセリは北海道から九州まで広く日本に分布しますが、里山環境の悪化により個体数を減らしている蝶です。特に東北地方では生息地が少なくなっています。
成虫は年1回の発生で7月から8月頃に見られます。生息環境は低山地から山地にかけてで、草原に樹林が混在するような場所で見られます。
飛翔は俊敏で、ヒメジョオンやアザミなどの花の蜜を吸う姿がよく見られます。地面で吸水することもあります。
見た目がよく似た種の蝶としてスジグロチャバネセセリがいます。スジグロチャバネセセリとは分布や発生時期が重なるため、同定には注意が必要です。
絶滅が危惧される種の紹介ページ
紹介サイト | 参考としたレッドリスト |
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