夏になって昆虫の季節がいよいよ到来!夏に見られる蝶はどんな種類がいるの?
春が終わり、夏本番となる6月から9月は、様々な昆虫が見られる時期です。この間には多くの蝶が見られますが、中にはこの時期だけにしか見られない蝶が何種類か存在します。
この記事では、6月から8月の夏だけ見られる蝶を、独断で20種類紹介します。
森の宝石ゼフィルス~ミドリシジミ類~
蝶好きであればおそらく一度は耳にしたことがある「ゼフィルス」という言葉。シジミチョウ科に属する一群で、メタリックに輝く美しい種が多くいるため、蝶好きには人気があります。日本に生息する25種類のゼフィルスのうち、4種類を紹介します。
アイノミドリシジミ
分布 | 北海道、本州、四国、九州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | オスは6月下旬から7月頃。メスは10月頃まで見られる。 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | コナラ、ミズナラなど |
亜種 | なし |
アイノミドリシジミは”ゼフィルス”と呼ばれるシジミチョウの1群に属する蝶で、年1回発生し、6月下旬頃から成虫の姿を見ることができます。♂は6時から10時頃に活発に活動し、卍巴飛翔を頻繁に行います。よく似た主としてメスアカミドリシジミがいます。ジョウザンミドリシジミやエゾミドリシジミは翅の表がメタリックブルー色であるのに対して、アイノミドリシジミやメスアカミドリシジミはエメラルドグリーン色をしています。
メスアカミドリシジミ
分布 | 北海道、本州、四国、九州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 6月から7月頃 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | ヤマザクラなど |
亜種 | なし |
メスアカミドリシジミは年に1回、6月から7月頃に見られるシジミチョウ科の蝶です。ゼフィルスと呼ばれるシジミチョウ科の1群で、翅がエメラルドグリーンに輝く非常に美しい蝶です。多くのゼフィルスの幼虫はブナ科の植物を食べますが、メスアカミドリシジミはヤマザクラなどのバラ科の植物の葉を食べます。
オスは主に午前中に活動し、9時頃から正午頃まで卍巴飛翔をして占有行動をします。飛翔は俊敏です。
ジョウザンミドリシジミ
分布 | 北海道、本州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | オスは6月下旬から7月頃。メスは10月頃まで見られる。 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | コナラ、ミズナラなど |
亜種 | なし |
ジョウザンミドリシジミは”ゼフィルス”と呼ばれるシジミチョウ科の一群で、メタリックブルーに輝く美しい蝶です。ゼフィルスの中では比較的良く見られる種で、福島県の磐梯山や青森県の岩木山などは多産地として知られ、多くのジョウザンミドリシジミが見られます。北海道では平地でも見られますが、本州では山地に生息しています。
オスは主に午前中に活動します。見た目が良く似ているエゾミドリシジミと生息地が重なることもありますが、エゾミドリシジミは午後に活動するため、時間帯で種類を凡そ見分けることができます。
ムモンアカシジミ
分布 | 北海道、本州(局地的) |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | オスは7月中旬から8月頃。メスは9月頃まで見られる。 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | クヌギ、カシワ、ブナなど。終齢幼虫はアブラムシなどを食べる半肉食性。 |
亜種 | なし |
ムモンアカシジミはゼフィルスの1種で、その名の通り、紋が無いアカシジミです。近縁種のアカシジミやウラナミアカシジミは、オスの活動時間が夕暮れ時なのに対して、ムモンアカシジミは正午前後に活動します。メスは飛ぶことが少なく、下草などでじっとしていることが多いです。
ムモンアカシジミの幼虫はアブラムシなどを食べる半肉食性であり、特殊な生態を持つことから生息域が局地的で、簡単に観察できる蝶ではありません。
高山にだけ生息する蝶
高山帯にのみ生息する蝶、いわゆる「高山蝶」と呼ばれる蝶は日本には以下の13種類が生息しています。このうち、6種類を紹介します。
ウスバキチョウ
分布 | 北海道 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 6月頃から7月頃まで |
越冬の状態 | 蛹で越冬 |
食草 | コマクサ |
亜種 | なし |
別名キイロウスバアゲハ。北海道の大雪山系の山頂付近にのみ生息する高山蝶で、地面を這うように飛びます。成虫は5月下旬ごろから発生し始め、7月下旬頃まで見ることができます。アゲハチョウ科の中では原始的なグループに属すると考えられています。似た種は特にいないため、容易に見分けることができます。
本種は「文化財保護法」に基づき1965年5月12日に天然記念物に指定されていて、採取禁止となっています。また、本種の幼虫は、同じく天然記念物であるコマクサを食草とします。環境省レッドリスト2020では「準絶滅危惧(NT)」に分類され、「現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種」とされており、今後の動向に注意が必要です。
ミヤマモンキチョウ
分布 | 本州 |
生息環境 | 高山 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | クロマメノキ |
亜種 | 浅間山亜種、飛騨山脈亜種 |
ミヤマモンキチョウは本州中部の高山帯にのみ生息する蝶で、主に標高1,700m以上の高山に生息する蝶です。
地理的変異があり、浅間山に産する浅間山亜種と、飛騨山脈に産する飛騨山脈亜種がいます。成虫は年1回の発生で、7月から8月頃に見られます。
ミヤマシロチョウ
分布 | 本州 |
生息環境 | 高山 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | ヒロハヘビノボラズなど |
亜種 | なし |
ミヤマシロチョウは本州中部の高山帯にのみ生息する蝶で、高山に生息する蝶の中でも生息地と個体数の減少が著しく、絶滅が危惧される蝶です。主に標高1,200mから2,000mの高山に生息する蝶です。
成虫は年1回の発生で、7月から8月頃に見られ、花の蜜や地面の水分などを好んで吸います。飛び方は緩やかで、滑空するように飛びます。
オオイチモンジ
分布 | 北海道、本州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | ドロノキ、ヤマナラシなど |
亜種 | なし |
オオイチモンジは北海道と本州に生息し、北海道では平地でも普通に見られますが、本州では標高1,000mから2,000m程度の山地に生息します。
日中は樹の上を滑空するように飛び、樹液や獣糞の汁などを吸います。成虫は年1回の発生で、6月下旬から8月中旬ごろに見られます。
ベニヒカゲ
分布 | 北海道、本州 |
生息環境 | 高山 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から9月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | ヒメノガリヤスなど |
亜種 | 北海道亜種、本州亜種 |
ベニヒカゲは北海道と本州に生息し、北海道では平地から山地にかけて生息しますが、本州では主に標高1,500m以上の高山に生息する蝶です。
成虫は年1回の発生で、近縁種のクモマベニヒカゲよりも発生時期はやや遅く、7月下旬から9月頃に見られます。地理的変異が大きい蝶としも知られます。
クモマベニヒカゲ
分布 | 北海道、本州 |
生息環境 | 高山 |
発生回数 | 3年に1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃 |
越冬の状態 | 卵と幼虫で越冬 |
食草 | イワノガリヤスなど |
亜種 | 北海道亜種、本州亜種 |
クモマベニヒカゲは北海道と本州に生息し、北海道では標高800m程度の場所にも生息しますが、本州では主に標高1,800m以上の高山に生息する蝶です。
成虫は近縁種のベニヒカゲよりも発生時期はやや早く、7月から8月頃に見られます。一世代の交代に3年を要し、1年目の冬は卵で越冬し、2年目の冬は幼虫で越冬し、3年目で蛹化して成虫になります。
分布が局地的なレアな蝶
キマダラルリツバメ
分布 | 本州 |
生息環境 | 平地・山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 6月から7月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | サクラ、キリなど |
亜種 | なし |
キマダラルリツバメは日本では本州のみに生息し、東北から中国地方まで生息地はありますが、分布は非常に局地的です。生息地が里山であることから、開発による影響を受けやすく、全国的に生息数が減少しています。成虫は年1回の発生で、6月から7月頃に見られます。
活動時間は夕方で、オスは16時頃から18時頃が最も活発になり、頻繁に占有行動をとります。日中は樹上や下草に静止しています。メスは夕方ごろに食樹付近を緩やかに飛翔します。
クロシジミ
分布 | 本州、四国、九州 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | クヌギ、コナラなど |
亜種 | なし |
クロシジミは生息数が激減し、生息地が局地的となっており、現在は絶滅が危惧される蝶の1種です。成虫は1年に1回の発生で、7月から8月頃に見られます。日中、オスは草原の上を俊敏に飛翔して、メスは低い場所をゆっくりと飛びます。ヒメジョオンなどの花の蜜を良く吸う姿が見られます。
ゴマシジミ
分布 | 北海道・本州・九州 |
生息環境 | 草原 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 8月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | ワレモコウなど |
亜種 | 北海道・東北亜種、本州中部亜種、八方尾根・白山亜種、中国・九州亜種 |
ゴマシジミは年1回の発生で、8月頃に成虫が見られます。ワレモコウなどがある草原に生息し、俊敏に飛翔して、ワレモコウの花などの蜜を吸います。北海道では比較的よく見られますが、本州や九州の生息地は限られ、絶滅が危惧される蝶の1種です。
ゴマシジミは地理的変異が非常に大きい蝶で、日本に生息するゴマシジミは北海道・東北亜種、本州中部亜種、八方尾根・白山亜種、中国・九州亜種に分けられます。
ゴマシジミはワレモコウなどに産卵し、若齢幼虫はワレモコウの花穂を食べて成長しますが、4齢幼虫になると地上に降りてアリに運ばれて巣の中に入り、アリの卵や幼虫を食べて成長します。
オオゴマシジミ
分布 | 北海道・本州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 8月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | カメバヒキオコシなどシソ科の植物 |
亜種 | なし |
オオゴマシジミは年1回の発生で、7月下旬から8月にかけて成虫が観察できます。生息地は極めて局地的で、標高1,200m以上の標高の高い場所に生息する蝶です。日本では北海道と本州に生息し、本州では東北から中部地方にかけて局地的に生息しています。全国的に数を減らしており、絶滅が危惧される蝶の1種です。
卵はシソ科の植物の花穂に産み付けられ、若齢幼虫はこれを食べますが、4齢幼虫になるとアリの巣の中に運ばれてアリの幼虫を食べて成長します。
オオルリシジミ
分布 | 本州、九州 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 6月頃 |
越冬の状態 | 蛹で越冬 |
食草 | クララ |
亜種 | なし |
オオルリシジミは本州と九州に生息し、かつては青森県や岩手県、福島県、群馬に生息していた記録が残っていますが、現在は絶滅しています。また、長野県の東北部から中部にかけて生息していましたが、現在はほとんどの地域で絶滅しています。九州の阿蘇がオオルリシジミの唯一の多産地として知られていますが、野焼きをやめると個体数が急激に減少することが知られています。
成虫は年1回の発生で6月頃に見られ、日中に活発に活動します。幼虫はクララを食草とし、蛹で越冬します。
アサマシジミ
分布 | 北海道、本州 |
生息環境 | 山地など |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 6月から7月頃 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | ナンテンハギなど |
亜種 | 北海道亜種、本州中部高山帯亜種、本州中部低山帯亜種 |
アサマシジミはかつては以下の3種類に分類されていましたが、現在は全てアサマシジミとなっており、この3種はそれぞれ亜種として分類されています。
- イブリシジミ(イシダシジミ):現在は北海道亜種とされる。
- ヤリガタケシジミ:現在は本州中部高山帯亜種とされる。
- アサマシジミ:現在は本州中部低山帯亜種とされる。
成虫は年1回の発生で、6月から7月頃にかけて見られます。分布は北海道と本州ですが、北海道の生息地は壊滅的な状況で、本州の生息地でも生息数は激減しています。
近縁種としてヒメシジミとミヤマシジミがおり、この中ではアサマシジミが一番大きくなります。特に本州中部低山帯亜種が大型となります。
ヒョウ柄の美しい蝶
コウゲンヒョウモン
分布 | 本州 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃まで |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | ワレモコウ、オニシモツケなど |
亜種 | なし |
コウゲンヒョウモンは元々はヒョウモンチョウ(別名:波ヒョウモン)と呼ばれていましたが、北海道に生息する個体と本州に生息する個体が別種であることが判明し、現在は北海道に生息する個体はキタヒョウモンと呼ばれ、本州に生息する個体はコウゲンヒョウモンと呼ばれるようになりました。この両種の見た目はほぼ同じであることから、見た目で見分けるのは不可能に近いと言えます。また、コヒョウモンとも見た目が似ており、分布が重なることもあるため、同定には注意が必要です。
成虫は年1回の発生で、7月から8月頃に見られます。活動時間は主に日中で、低い位置を緩やかに飛翔し、花の蜜を吸います。
コヒョウモン
分布 | 北海道、本州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃まで |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | オニシモツケ、エゾノシモツケなど |
亜種 | なし |
コヒョウモンは日本では北海道と本州に生息します。成虫は年1回の発生で、7月頃に発生し、8月頃まで見られます。活動時間は主に日中で、草地を緩やかに飛翔し、花の蜜をよく吸います。
コヒョウモンはコウゲンヒョウモンやキタヒョウモンと見た目が非常に良く似ているため、同定には注意が必要です。
コヒョウモンモドキ
分布 | 本州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | クガイソウ、ヒメトラオノなど |
亜種 | なし |
コヒョウモンモドキは日本では中部と関東地方にのみ生息します。かつては東北地方でも記録がありますが、現在は生息していません。比較的標高が高い場所に生息する蝶ですが、草原環境の減少やシカによる食害などで絶滅した地域も少なくありません。個体数を減らしており、絶滅が危惧される蝶の1種です。
成虫は年1回の発生で、7月から8月にかけて観察することができます。日中、低い位置を緩やかに飛び、花の蜜をよく吸います。
日本の国蝶
オオムラサキ
分布 | 北海道、本州、四国、九州 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | エノキ |
亜種 | なし |
その名が示す通り、オオムラサキの♂は翅の表が紫色に輝きます。大型のチョウであり、かつ胴体が非常に太いため、飛ぶ姿は力強く、インパクトの非常に大きな蝶です。
かつては東京都内の雑木林で見られた蝶ですが、現在は東京をはじめ都市部では個体数が減少あるいは絶滅しており、普段はなかなか見る機会がありません。
山梨県は昔からオオムラサキが多く生息する地で有名です。特に山梨県の北杜市や韮崎市は有名な場所で、北杜市にはオオムラサキセンターという大きな飼育・観光施設があり、その生態を学ぶことができます。
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