アゲハチョウの幼虫の飼育をしている人の多くは、次のことを知っていると思います。
キアゲハの幼虫はミカン科ではなく、セリ科の植物を食べるんだよね?
その通りです。アゲハチョウの幼虫はミカン科の植物の葉を食べるのに対して、キアゲハの幼虫はパセリ等のセリ科の植物を食べます。庭にパセリを植えておくと卵を産みにくるキアゲハを見ることができます。
しかしその一方で、
キアゲハの幼虫はミカン科の植物も食べることを知っているでしょうか?
実際に我が家では、庭のバタフライガーデンに植えてあるヘンルーダ(ミカン科)にキアゲハの幼虫が来たことがあります。稀なことではありますが、野生のキアゲハがミカン科の植物を食べることを、自宅で証明することができました。
この記事では、実際に野生のキアゲハがヘンルーダを食草としたときの成長過程を紹介します。貴重な記録ですので、是非最後までご覧ください。
ヘンルーダを食草とする野生のキアゲハを発見!
普段、我が家のバタフライガーデンのヘンルーダ(ミカン科)には、ナミアゲハやクロアゲハ、カラスアゲハの幼虫がよく来ます。これらの蝶の幼虫はミカン科の植物を食べますので、ごく自然のことです。
キアゲハは通常はセリ科の植物を食べますので、我が家に植えてあるパセリにはよくキアゲハの幼虫が来ています。
ですが、ある時急に、ミカン科の植物であるヘンルーダにキアゲハの幼虫がいて、少し驚きました。
一般的に販売されている図鑑を見ても、キアゲハの食草はセリ科の植物と記載されており、どこにもミカン科の植物を食べるとは書いていません。その後よくよく調べてみると、「日本産蝶類標準図鑑」には、野生のキアゲハがミカン科の植物を食べることがある旨の記載が見つかりました。どうやら、野生のキアゲハがミカン科の植物に卵を産むことは、稀ではあるもののすでに実証されているようです。
私はこれまで見たことが無かったため、ヘンルーダにいたキアゲハの幼虫を6匹、飼育ケースに入れて飼育してみることにしました。通常の食草とは異なるミカン科の植物を食べることによる「羽化率」や「成長過程」の違いを観察してみたいと思います。
幼虫を6匹採集して虫かごで飼育!
ヘンルーダを食草とする野生のキアゲハを6匹採集して、飼育ケースで観察してみます。今回は見つけた時にすでに5齢(終齢)幼虫となっていました。
アゲハチョウ科の幼虫の成長過程
ここで、アゲハチョウ科の幼虫の成長過程を簡単に紹介します。
アゲハチョウ科の蝶の幼虫は、卵から孵化してしばらくは白と黒の鳥の糞のような模様をしています。具体的には、卵から孵化した1齢幼虫から4齢幼虫までは下の写真のような模様をしています。これは、鳥の糞に擬態することで、天敵である鳥などから身を守っていると考えられています。
そして、葉っぱを食べて成長して5齢(終齢)幼虫になると、突然緑色の幼虫となります。緑色の幼虫になると、アゲハチョウなどは背景と同化して見つけにくくなりますが、キアゲハは独特の模様をしていますので比較的容易に見つけることができます。5齢幼虫の後は蛹になって羽化して成虫となります。
今回見つけたのは、5齢(終齢)幼虫のキアゲハでした。
飼育ケースで観察した印象
ヘンルーダを食草とする野生のキアゲハの幼虫を観察していて感じたのは、「大きさが小さいこと」と「食べる葉の量が少ない」ことです。
”幼虫の大きさが小さい”
通常、キアゲハの幼虫は5齢(終齢)幼虫になると50mm程度まで大きくなります。一方で、今回観察したヘンルーダを食草とするキアゲハは、大きさがどれも小さく大きい個体でも35mm程度です。体も細い個体が多く、セリ科の植物を食草とするキアゲハと比べると小さい傾向があるように見えました。
5齢(終齢)幼虫まで成長しているので、ミカン科の植物でも成長はできるのですが、やはりセリ科の植物と比較するとうまく葉っぱを消化できていない可能性があります。
”食べる葉の量が少ない”
もう1つ気付いたことは、食べる葉の量が少ないことです。通常は5齢(終齢)幼虫であれば食欲が旺盛となり、飼育ケースに葉っぱを沢山入れておいてもすぐになくなってしまいます。そのため、通常は5齢(終齢)幼虫を6匹も同時に飼育ケースに入れてしまうと、葉っぱの確保が大変になります。
一方で、今回飼育したキアゲハの幼虫は食欲があまりなく、5齢(終齢)幼虫を6匹同時飼育しても葉っぱが長持ちします。通常とは明らかに食欲がないことが分かります。通常食べているセリ科の植物ではないため、食欲が出ない可能性があることがわかりました。
☆になってしまう個体も、、、
中には☆になってしまう個体もいました。6匹飼育している中で、3匹が蛹になる前に☆になってしまいました。寄生虫に寄生されている様子も見られなかったため、おそらく自然に☆になってしまったのだと思います。
通常、アゲハ蝶やキアゲハを飼育している中ではこのようなことはあまり起こりませんので、6匹中3匹、つまり50%の割合で☆になってしまったというのは非常に高い確率と言えます。食草が影響している可能性が考えられます。
幼虫から蛹へ
幼虫の大きさが小さいため、蛹になれるのか心配していましたが、小さい幼虫のまま無事に蛹になることができました。
ですが、大きさは全て27~29mmであり、非常に小さい蛹となりました。
これは通常の食草で育てた蛹と比較すると小さいため、食草が通常と異なることによる影響と考えられます。飼育していた6匹中3匹が無事に蛹になることができました。
ただし、そのうち1匹は蛹のまま成虫になることなく☆になってしまいました。寄生されていたわけではないので、食草による影響も考えられます。
蛹から成虫へ
蛹になってから大体14日(2週間)で蛹が羽化しました。蛹の期間は通常の食草で飼育した時と大体同じです。
今回飼育した個体は9月に羽化したので、通常であれば夏型の大型の個体となります。ですが、このキアゲハは非常に小さく、春型と同等のサイズとなりました。幼虫の時に十分に栄養がとれなかったことによる影響と考えられます。幼虫の時にヘンルーダは欠かすことなく与えていましたので、食草が通常と異なることが影響していると考えられます。
ですが、キアゲハはミカン科の植物でも成虫になることが確認できました。
今回は6匹の幼虫を飼育しましたが、最終的に成虫になれたのはたったの2匹だけでした。この割合は通常より低く、食草による影響が考えられます。
実験結果のまとめ
今回は6匹のキアゲハの幼虫を飼育してみました。その結果は以下の表の通りです。
No | 結果 |
1 | 成虫まで成長 |
2 | 成虫まで成長 |
3 | 蛹のまま☆に |
4 | 幼虫で☆に |
5 | 幼虫で☆に |
6 | 幼虫で☆に |
成虫になれたのはたったの2匹だけでした。
今回の貴重な実例を踏まえてわかったことを以下にまとめます。
- キアゲハの幼虫はミカン科の植物を食草とすることがある。
- ミカン科の植物は食べる量が少なくなる可能性がある。
- ミカン科を食草とした場合は成長が遅く、小さい幼虫・蛹・成虫となる可能性がある。
- ミカン科を食草とした場合には、☆になる確率が高くなる可能性がある。
- ミカン科でも成虫まで成長することができる
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この記事ではキアゲハの幼虫の食草・エサを詳しく解説しました。このサイトではこの記事で紹介した内容以外にも、キアゲハについて多くの解説記事を執筆しています。以下の記事も是非ご覧ください!
コメント
大変貴重なレポートを読ませていただきました。
ありがとうございました。
本日うちの敷地にあるヘンルーダにキアゲハの幼虫がわんさかいたので、
驚いて検索した結果、こちらにたどり着きました。
幼虫にしてみれば「ここで生きなさい」と
母親に産み落とされてしまったら、そこで頑張るしかないんでしょうね。
ヘンルーダが他の柑橘類と比べると
原始的な特徴を残しているので、
柑橘毒素?が薄いのかもしれません。
近くにあるセリ科の植物に移してあげようかとも思いましたが、
おそらく幼少の頃?よりヘンルーダを食べているならば
適応できない可能性があるかなあと思いましたので
心配ながらもほおっておきました。
通常より成虫になれる確率が低いのですね。
頑張ってほしいものです。
コメントありがとうございます。
ヘンルーダ以外の柑橘系にはなかなか来ないので、ご記載の通りヘンルーダは他の柑橘系とは少し性質が異なるのかもしれません。
無事に成虫になると良いですね!