茨城県は筑波山をはじめ、ある程度自然が残っている県ですが、特に県南では開発が進み昆虫は数を減らしています。
茨城県では、希少野生生物のおかれている現状と保護の大切さについて理解を深めるために茨城県版レッドリスト・レッドデータブックを公表しています。それによると、茨城県内では2種類の蝶が絶滅しているほか、5種類が絶滅危惧ⅠA類に、9種類が絶滅危惧ⅠA類に分類されています。
この記事では絶滅した蝶、絶滅の危機に瀕する蝶を紹介します。
茨城県で絶滅した2種類の蝶
オオウラギンヒョウモン
分布 | 九州以外のほとんどの地域で絶滅 |
生息環境 | 草原 |
発生回数 | 九州では年2回 |
成虫が見られる時期 | 6月頃から9月頃まで |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | スミレ科の植物 |
亜種 | なし |
かつては本州や四国、九州に分布していて、ウラギンヒョウモンよりも普通に見られることもある蝶でしたが、現在では九州以外のほとんどの地域で絶滅してしまいました。日本で最も減少した蝶と言われています。
オオウラギンヒョウモンは草刈りを定期的に行っている草原環境に生息していますが、開発や管理放棄により環境が変わり、大きく減少したと考えられています。
ヒョウモンモドキ
分布 | 広島県の一部 |
生息環境 | 草原・湿地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 6月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | キク科の植物 |
亜種 | なし |
ヒョウモンモドキは本州の特産種で北海道や四国、九州には生息しません。かつては関東地方や中部地方などにも生息していましたが、本種の生息環境である草原や湿地が開発や管理放棄により減少し、現在では広島県の一部にしか生息していません。広島県では継続して保全活動が行われています。
茨城県で絶滅危惧ⅠA類の5種類の蝶
ウスバシロチョウ
分布 | 北海道・本州・四国 |
生息環境 | 平地・山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 4月頃から6月頃まで |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | ムラサキケマンなどのケマンソウ科の植物 |
亜種 | なし |
ウスバシロチョウはウスバアゲハとも呼ばれ、アゲハチョウ科に分類される蝶です。緩やかに滑空するように飛翔し、花をよく訪れます。成虫は暖地では4月から5月頃に見られ、寒冷地では6月頃まで見られます。都市部では生息数は多くはありませんが、全国的には比較的よく見られる蝶です。
北海道、本州、四国に生息していますが、九州や沖縄には生息していません。本州や四国ではウスバシロチョウに見た目が似た種は生息していませんが、北海道ではヒメウスバシロチョウ(別名ヒメウスバアゲハ)が生息しており、見た目が非常に良く似ているため、同定には注意が必要です。
ヒメシロチョウ
分布 | 北海道、本州、九州 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年3回程度 |
成虫が見られる時期 | 4月から9月頃まで |
越冬の状態 | 蛹で越冬 |
食草 | ツルフジバカマなど |
亜種 | なし |
ヒメシロチョウは北海道、本州、九州に生息しています。生息地は局地的で、草地環境の悪化により絶滅した地域もあり、全国的に絶滅が危惧されています。成虫は年3回程度の発生で、第1化は4月頃から羽化し、第3化が9月頃まで見られます。
日中に活発に活動し、草地の周辺を緩やかに飛翔します。モンシロチョウと比較すると小さく、飛翔も緩やかであることから、飛翔中でも見分けることができます。北海道に生息するエゾヒメシロチョウとは見た目が非常に良く似ており、生息地が重なることもあるため、同定には注意が必要です。
カラスシジミ
分布 | 北海道、本州、四国、九州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 6月から7月頃 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | ハルニレ、スモモなど |
亜種 | なし |
カラスシジミは成虫が年に1回発生し、6月から7月頃に見られます。北海道では平地から山地にかけて比較的良く見られます。本州以南では主に山地に生息します。日中は休んでいることが多く、主に夕方に活発に活動します。飛び方はとても俊敏で、栗の花やヒメジョオンの花などの蜜を吸います。
幼虫はハルニレやコブニレなどのニレ科のはを食べますが、スモモなどのバラ科の植物の葉を食べることもあります。
見た目が似た種として、日本にはベニモンカラスシジミとミヤマカラスシジミが生息します。
クロシジミ
分布 | 本州、四国、九州 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月から8月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | クヌギ、コナラなど |
亜種 | なし |
クロシジミは生息数が激減し、生息地が局地的となっており、現在は絶滅が危惧される蝶の1種です。成虫は1年に1回の発生で、7月から8月頃に見られます。日中、オスは草原の上を俊敏に飛翔して、メスは低い場所をゆっくりと飛びます。ヒメジョオンなどの花の蜜を良く吸う姿が見られます。
キバネセセリ
分布 | 北海道・本州・四国・九州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月頃から8月頃まで |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | ハリギリ |
亜種 | なし |
キバネセセリは北海道から九州まで広く日本に分布します。北海道や本州の東北から中部地方では比較的よく見られますが、それ以外の地域では個体数の減少が著しく、観察できる機会は限られます。
成虫は年1階の発生で、7月頃から8月頃まで見られます。主に山地に生息し、♂は地面で吸水したり、獣糞の汁を吸う姿がよく見られます。♀は花の蜜をよく吸います。
日本にはキバネセセリと同じ亜科としてアオバセセリ、オキナワビロウドセセリ、テツイロビロウドセセリの4種類が生息していますが、見た目が似ているわけではないため、キバネセセリを見分けるのは容易です。
茨城県で絶滅危惧ⅠB類の9種類の蝶
チャマダラセセリ
分布 | 北海道、本州、四国 |
生息環境 | 草原 |
発生回数 | 年2回 |
成虫が見られる時期 | 5月頃と8月頃 |
越冬の状態 | 蛹で越冬 |
食草 | バラ科の植物 |
亜種 | なし |
チャマダラセセリは丘陵地や山地の草原環境に生息する蝶で、5月頃と8月頃に見られます。生息に適した環境が管理放棄により失われ、全国的に減少が著しい蝶です。現在はその姿はほとんど見られなくなり、ごく限られた場所にのみ生息する蝶となってしまいました。
ホシチャバネセセリ
分布 | 本州・対馬 |
生息環境 | 山地の草原 |
発生回数 | 年1回程度 |
成虫が見られる時期 | 7月頃から8月頃まで |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | オオアブラススキなどのイネ科の植物 |
亜種 | なし |
ホシチャバネセセリは年1回の発生で、7月から8月頃に成虫が見られます。山地の草原などに生息しますが、個体数の減少が著しく、絶滅した場所も多くあります。日本では本州と対馬に生息し、本州では青森県から山口県まで分布は広いのですが、生息地は局地的です。生息地は残りわずかとなっている貴重な蝶です。
小さい種類が多いセセリチョウ科の蝶の中でもひときわ小さく、すぐに見失ってしまいます。花をよく訪れ、花の蜜をよく吸います。
スジボソヤマキチョウ
分布 | 本州、四国、九州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | ほぼ周年 |
越冬の状態 | 成虫で越冬 |
食草 | クロウメモドキ、クロツバラなど |
亜種 | なし |
スジボソヤマキチョウは、本州から九州まで広く日本に分布します。主に山地に生息し、平地ではあまり見られません。成虫は年1回の発生で、6月頃から羽化しはじめ、短い期間活動したあと夏眠に入り秋にまた活動を再開します。
活動時間は主に日中で、緩やかに飛翔し、花の蜜を吸うほか、地面から吸水する姿も見られます。
近縁種のヤマキチョウと見た目がよく似ますが、ヤマキチョウは生息環境の悪化により個体数が激減しているのに対して、スジボソヤマキチョウは山地では比較的よく見られます。
ツマグロキチョウ
分布 | 本州、四国、九州 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年3~4回 |
成虫が見られる時期 | ほぼ周年 |
越冬の状態 | 成虫で越冬 |
食草 | カワラケツメイ、アレチケツメイなど |
亜種 | なし |
ツマグロキチョウは本州、四国、九州に生息します。かつては普通に見られた蝶ですが、環境悪化により生息数が減少し、現在は絶滅が危惧される蝶です。成虫は年3~4回程度発生し、第1化(夏型)は5月頃から発生し始めます。
キタキチョウと見た目がよく似ており、分布も重なることがあるため、同定には注意が必要です。特に夏型は見た目がよく似ます。
ウラジロミドリシジミ
分布 | 北海道、本州、四国、九州 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 6月から7月頃 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | カシワ、ナラガシワ |
亜種 | なし |
ウラジロミドリシジミは北海道から九州まで広い範囲に生息する蝶で、成虫は年1回の発生で、6月から7月頃に見られます。ウラジロミドリシジミの幼虫はカシワやナラガシワを食樹としますので、カシワ林に生息しています。
オスは夕暮れ時に活動しますが、オスとメスともに日中は不活発で、葉の上に静止していることが多いです。
ウラジロミドリシジミはゼフィルスと呼ばれるシジミチョウ科の1群の中の1種です。
ハヤシミドリシジミ
分布 | 北海道、本州、九州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 6月から8月頃 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | カシワ |
亜種 | なし |
ハヤシミドリシジミは、ゼフィルスと呼ばれるシジミチョウ科の1群の中の1種で、オスは翅の表面が青色に輝く非常に美しい蝶です。成虫は年1回の発生で、6月から8月頃に見られます。ハヤシミドリシジミはの幼虫はカシワの葉しか食べないため、カシワ林に生息しています。
オスは夕方ごろに積極的に活動し、16時から19時頃が活動のピークとなり、カシワ林の周辺を活発に飛び回ります。メスは基本的に不活発で、カシワの葉付近でじっと止まっていることが多いです。
ヒメシジミ
分布 | 北海道、本州、九州 |
生息環境 | 草原 |
発生回数 | 年1回程度 |
成虫が見られる時期 | 6月から7月頃 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | オオヨモギなど |
亜種 | 北海道亜種、本州・九州亜種 |
ヒメシジミは北海道と本州、九州に生息する蝶で、四国や沖縄には生息していません。北海道では平地でも見られますが、本州では比較的標高の高い草原に生息する蝶です。草原の環境の悪化により絶滅してしまった場所も少なくありません。
ヒメシジミは産地による個体差が大きい蝶で、北海道に生息する亜種と、本州や九州に生息する亜種の2種類の亜種に分類されます。また、同じ地域に生息するものでも個体差が大きいです。
見た目がよく似た種として、ミヤマシジミとアサマシジミがいますが、この3種の中ではヒメシジミが最も小型です。また、ミヤマシジミはヒメシジミと比較すると標高が低い河川敷などにに生息するため、生息環境でも概ね見分けることができます。
ミヤマカラスシジミ
分布 | 北海道、本州、四国、九州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 7月中旬から8月頃 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | コバノクロウメモドキ、クロツバラなど |
亜種 | なし |
ミヤマカラスシジミは主に低山地から山地に生息する日本固有の蝶です。成虫は7月中旬ごろから8月ごろまで見られ、年1回の発生です。北海道から九州まで広く分布し、場所によっては非常に多くの個体を観察することができます。ミヤマカラスシジミのオスは午後に活発に活動し、俊敏に飛んではよく花に止まります。
ムモンアカシジミ
分布 | 北海道、本州(局地的) |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | オスは7月中旬から8月頃。メスは9月頃まで見られる。 |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | クヌギ、カシワ、ブナなど。終齢幼虫はアブラムシなどを食べる半肉食性。 |
亜種 | なし |
ムモンアカシジミはゼフィルスの1種で、その名の通り、紋が無いアカシジミです。近縁種のアカシジミやウラナミアカシジミは、オスの活動時間が夕暮れ時なのに対して、ムモンアカシジミは正午前後に活動します。メスは飛ぶことが少なく、下草などでじっとしていることが多いです。
ムモンアカシジミの幼虫はアブラムシなどを食べる半肉食性であり、特殊な生態を持つことから生息域が局地的で、簡単に観察できる蝶ではありません。
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