この記事では、春に見られる蝶を紹介します。
春になって段々暖かくなってきたら昆虫観察に出掛けたい。春に見られる蝶はどんな種類がいるの?
2月頃になると、徐々に蝶が飛び始めます。この時期に見られる蝶は、成虫で越冬している蝶です。成虫で越冬している蝶は、葉の裏などで越冬をしていますが、気温が高い日があると越冬から目覚めて飛び始めます。
また、2~3月頃になると、蛹で越冬してこの時期に羽化する蝶が飛び始めます。例えばギフチョウやツマキチョウなどがその代表種です。そこから徐々に蝶の季節が始まっていきます。
この記事では2月から4月ごろにかけて観察できる越冬種と、春に羽化する蝶を紹介します。ちなみに、春先にのみ見られる蝶は春の妖精(スプリングエフェメラル)と呼ばれることがあります。
成虫で越冬する蝶
日本には成虫で越冬する蝶が何種類かいます。ここでは、都会の公園などでも見かける機会が多いキタキチョウ、キタテハ、ルリタテハ、ムラサキシジミ、ムラサキツバメを紹介します。これらの蝶は、2月で気温が20℃を越えるような温かい日には、越冬から目覚めて元気に飛び回る姿を観察することができます。
キタキチョウ(シロチョウ科)
分布 | 本州、四国、九州、沖縄 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年3回程度 |
成虫が見られる時期 | ほぼ周年 |
越冬の状態 | 成虫で越冬 |
食草 | メドハギ、ミヤギノハギなど |
亜種 | なし |
キタキチョウは、本州から沖縄まで日本に広く分布します。平地から山地まで様々な環境に生息し、都心部の公園や民家でも普通に見られます。成虫は年に複数回発生し、成虫で越冬するため、冬季でも暖かい日であれば飛ぶことがあります。日中に活発に活動し、花の蜜を吸うほか、地面から吸水する姿も見られます。
キタキチョウは、本州や四国、九州ではツマグロキチョウと、沖縄や奄美大島ではミナミキチョウ、タイワンキチョウと見た目が似るため、同定には注意が必要です。
キタテハ
分布 | 北海道、本州、四国、九州 |
生息環境 | 平地 |
発生回数 | 年3~5回程度 |
成虫が見られる時期 | 周年 |
越冬の状態 | 成虫で越冬 |
食草 | カナムグラなど |
亜種 | なし |
キタテハは1年に3~5回発生し、成虫で越冬するため、ほぼ1年中成虫が見られる蝶です。分布は北海道から九州まで広いのですが、北海道では減少が著しく近年は記録がありません。北海道以外の地域では普通に見られ、東京都心でも普通に生息しています。
季節型がはっきりしている種であり、夏に発生する夏型と、秋に発生する秋型で模様が異なり、秋型は翅の切れ込みが大きく赤みが強い色になります。
成虫は花の蜜や樹液、腐った果物の汁をよく吸います。
キタテハは、シータテハやエルタテハ、ヒオドシチョウと見た目が似ており、特にシータテハに似るため同定には注意が必要です。
ルリタテハ(タテハチョウ科)
分布 | 北海道、本州、四国、九州、沖縄 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 暖地では年3回以上 |
成虫が見られる時期 | 周年 |
越冬の状態 | 成虫で越冬 |
食草 | サルトリイバラ、ホトトギスなど |
亜種 | 日本本土亜種、南西諸島亜種 |
ルリタテハは1年に3回程度発生する蝶で、成虫で越冬するためほぼ1年中見られる蝶です。越冬中でも、暖かい日であれば飛び始めます。季節による変異があり、秋に産まれる個体は翅の裏面が暗い色になります。
市街地にも生息しており、東京都心の公園でも見られることがあります。分布は北海道から沖縄までほぼ日本全国に広がっています。沖縄に生息する個体は南西諸島亜種とされ、本州などのルリタテハと比べて大型になり、青色帯が内側に偏る特徴があります。
俊敏に飛びますが、樹液や腐った果物などによく止まります。越冬後は花をよく訪れます。
ムラサキシジミ(シジミチョウ科)
分布 | 本州、四国、九州、沖縄 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年3回程度 |
成虫が見られる時期 | 周年 |
越冬の状態 | 成虫で越冬 |
食草 | アラカシ、イチイガシなど |
亜種 | なし |
ムラサキシジミは翅の表面に美しい紫色があることが特徴です。年3回の発生で、成虫で越冬するため、1年を通して観察できる蝶です。冬季でも、暖かい日であれば冬眠から目覚めて飛び回ります。日中は積極的に活動はしませんが、夕方ごろになると活発に活動し、樹の周りを飛び回ります。越冬前は樹液を吸ったり、地面で吸水をしたりしますが、越冬後は花の蜜を吸うようになります。
分布は本州から沖縄までと広く、市街地近郊でも普通に見られる蝶です。東京都区内でも見られます。
似た主としては、ムラサキツバメとルーミスシジミがいます。ルーミスシジミは生息地が極めて局地的であることから、普段の生活の中で目にする機会は基本的にありません。ムラサキツバメは、以前は南方にのみ生息していましたが、近年は関東でも普通に見られるようになりました。
ムラサキツバメ
分布 | 本州、四国、九州、沖縄 |
生息環境 | 平地 |
発生回数 | 年4回程度 |
成虫が見られる時期 | 周年 |
越冬の状態 | 成虫で越冬 |
食草 | マテバシイなど |
亜種 | なし |
ムラサキツバメは元々は南方系の蝶で、主に九州や四国に生息する蝶でした。しかし2000年代頃から生息地が北上し、急激に分布を広げました。現在では関東地方でも普通に見られるようになり、東京都内でも観察することができます。分布拡大の原因は、温暖化による自然分布拡大や、食樹の植樹、放チョウの可能性が考えられています。
日中はあまり積極的に活動せず、夕方ごろに活発に活動を行います。成虫で越冬するため、冬季でも暖かい日であれば冬眠から目覚めて活動を行います。
見た目が似ている種として、ルーミスシジミとムラサキシジミがいます。ルーミスシジミは生息地が極めて局地的であることから、普段の生活の中で目にする機会は基本的にありません。ムラサキシジミはムラサキツバメと生息地が重なることが多いため、種の同定には注意が必要です。
春に羽化して春にのみ見られる蝶~春の妖精(スプリングエフェメラル)~
スプリング・エフェメラルという言葉を聞いたことはあるでしょうか。普段の生活の中では聞くことのない言葉だと思いますが、蝶や植物に興味がある方は聞いたことがあるかもしれません。スプリング・エフェメラルとは、元々は春先に花を咲かせる植物の総称として用いれる言葉ですが、直訳をすると「春の短い命」という意味で、「春の妖精」と訳されることもあります。
日本の蝶では、ギフチョウやウスバシロチョウがスプリング・エフェメラル、つまり春の妖精とよく呼ばれます。ここでは、そういった春にだけ成虫として見られる蝶を紹介したいと思います。
ギフチョウ(アゲハチョウ科)
分布 | 本州 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 4月頃 |
越冬の状態 | 蛹で越冬 |
食草 | カンアオイ類、ウスバサイシンなど |
亜種 | なし |
日本のスプリング・エフェメラルといえば、まず出てくるのはギフチョウだと思います。1年のうち、春先にだけ成虫が見られます。平地では3月頃から、山地では5月頃に見られます。成虫は10時頃から飛翔を開始し、カタクリやタチツボスミレ等の丈の低い花を好んで吸蜜します。
高度経済成長期以降、急激に数を減らしており、1973年頃までは八王子市高尾山一帯の小仏峠・景信山・御殿峠に生息するなど、南関東でも広い範囲で生息していましたが、現在は南関東では神奈川県の一部にしか生息していません。
明治16年(1883年)に初代名和昆虫研究所所長の名和靖さんが学会に紹介し、岐阜県でこの蝶が得られたため、ギフチョウと名付けられました。
似た種として、ヒメギフチョウがいます。ヒメギフチョウと生息域がはっきりと分かれており、おおむねフォッサマグナより西では本種が、東ではヒメギフチョウが生息します。長野県の白馬村をはじめとする数か所では両種が混在して生息しています(生息域の境界線を「リュードルフィア線」と呼ぶ)。
ヒメギフチョウ(アゲハチョウ科)
分布 | 北海道・本州 |
生息環境 | 山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 4月から5月頃まで |
越冬の状態 | 蛹で越冬 |
食草 | ウスバサイシンなど |
亜種 | 北海道亜種、本州亜種 |
ギフチョウと同様に、春を代表する蝶の1種です。カタクリ等の花をよく訪れます。警戒心はそれほど高くなく、近づいても逃げないことが多いです。幼虫はウスバサイシン、オクエゾサイシンを食草とします。
ギフチョウと似ますが、本種の方が小型であること、黒帯が細くて後翅外縁のオレンジ列が地色と同じ黄色になること等で違いがあります。また、ギフチョウと生息域がはっきりと分かれており、おおむねフォッサマグナより東では本種が、西ではギフチョウが生息します。長野県の白馬村をはじめとする数か所では両種が混在して生息しています(生息域の境界線を「リュードルフィア線」と呼ぶ)。
亜種として、本州亜種(inexpecta)、北海道亜
ウスバシロチョウ(アゲハチョウ科)
分布 | 北海道・本州・四国 |
生息環境 | 平地・山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 4月頃から6月頃まで |
越冬の状態 | 卵で越冬 |
食草 | ムラサキケマンなどのケマンソウ科の植物 |
亜種 | なし |
ウスバシロチョウはウスバアゲハとも呼ばれ、アゲハチョウ科に分類される蝶です。緩やかに滑空するように飛翔し、花をよく訪れます。成虫は暖地では4月から5月頃に見られ、寒冷地では6月頃まで見られます。都市部では生息数は多くはありませんが、全国的には比較的よく見られる蝶です。
北海道、本州、四国に生息していますが、九州や沖縄には生息していません。本州や四国ではウスバシロチョウに見た目が似た種は生息していませんが、北海道ではヒメウスバシロチョウ(別名ヒメウスバアゲハ)が生息しており、見た目が非常に良く似ているため、同定には注意が必要です。
ツマキチョウ(シロチョウ科)
分布 | 北海道、本州、四国、九州 |
生息環境 | 平地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 4月から5月頃 |
越冬の状態 | 蛹で越冬 |
食草 | イヌガラシ、ハタザオなど |
亜種 | なし |
ツマキチョウは春先の4月頃にのみ現れる蝶で、1年のうち、ほとんどの時期を蛹で過ごします。4月頃に成虫として現れ、卵を産み、5月頃に幼虫となり、6月~3月頃までを蛹で過ごし、4月頃にまた成虫となって飛び回ります。
分布は北海道、本州、四国、九州で、都心部などでも普通に観察することができます。
幼虫の食草は、タネツケバナやイヌガラシ、セイヨウカラシなどのアブラナ科の植物です。
モンシロチョウに似ているため、慣れていないと見間違えることがありますが、モンシロチョウと比べて飛び方が弱々しいのが特徴です。
コツバメ(シジミチョウ科)
分布 | 北海道、本州、四国、九州 |
生息環境 | 平地、山地 |
発生回数 | 年1回 |
成虫が見られる時期 | 4月頃 |
越冬の状態 | 蛹で越冬 |
食草 | アセビ、ヤマツツジなど |
亜種 | なし |
コツバメは成虫が年1回の発生で、4月頃にのみ見られるシジミチョウ科の蝶です。1年のほとんどを蛹で過ごし、越冬も蛹でします。分布は北海道から九州までと広く、各地で比較的よく見られます。飛翔は非常に俊敏で、かつ小型の蝶のためすぐに見失いますが、すぐに止まるためカメラでの撮影は比較的容易です。
その他の春に羽化する蝶
上では春に羽化して春先にのみ見られる蝶を紹介しました。最後に紹介するのは、春に羽化してその後10月頃まで長い期間見られる蝶を紹介します。その中でも、都会の公園などでも見かける機会が多いモンキチョウ、モンシロチョウ、スジグロシロチョウ、ヤマトシジミ、ツバメシジミを紹介します。これらの蝶は、主に3月頃から新成虫を観察することができます。
モンキチョウ
分布 | 北海道・本州・四国・九州・沖縄 |
生息環境 | 平地・山地 |
発生回数 | 年4~7回程度 |
成虫が見られる時期 | 3月頃から11月頃まで |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | シロツメクサやコマツナギなどのマメ科の植物 |
亜種 | なし |
モンキチョウは、その名の通り紋のある黄色い蝶ですが、全ての個体が黄色というわけではありません。上の写真では、上から3枚目と4枚目のモンキチョウはどちらかというと白色に見えると思います。ですが、この個体もモンキチョウです。
これは、♂と♀で色が異なるためです。♂のモンキチョウは必ず黄色になります。一方で、♀のモンキチョウは、白色の個体もいれば、黄色の個体もいます。ですので、白色の個体であれば必ず♀、黄色の個体であれば♂と♀どちらもあり得るということになります。
幼虫は都市部の公園などでもよく見かけるシロツメクサを食草とするため、都市部でも普通に見られます。また、山地や河川敷などでもよく見られ、様々な環境で生息している蝶です。
分布も北海道から沖縄まで日本全国で見られる蝶で、それゆえモンシロチョウなどと並んで日本で最も有名な蝶の1種であると言えます。
モンシロチョウ
分布 | 北海道・本州・四国・九州・沖縄 |
生息環境 | 平地 |
発生回数 | 年5~7回程度 |
成虫が見られる時期 | 3月頃から11月頃まで |
越冬の状態 | 蛹で越冬 |
食草 | キャベツなどのアブラナ科の植物 |
亜種 | なし |
モンシロチョウは、元々は日本に生息していなかった移入昆虫であると言われていますが、現在では北海道から沖縄までの全国で普通に見られる蝶です。元々は沖縄には生息していませんでしたが、1950年代頃から見られるようになり、現在は沖縄でも普通に見ることができます。
幼虫はキャベツなどのアブラナ科の植物を食草とするため、キャベツ畑でよく見ることができます。キャベツの害虫として扱われる場合も多くあります。
スジグロシロチョウ
分布 | 北海道、本州、四国、九州 |
生息環境 | 平地 |
発生回数 | 年4~5回 |
成虫が見られる時期 | 4月から10月頃 |
越冬の状態 | 蛹で越冬 |
食草 | オオアラセイトウ、エゾハタザオなど |
亜種 | なし |
スジグロシロチョウは都心部の公園などでも比較的よく見ることができる普通種です。日本全国広く分布しており、モンシロチョウと生息域も重なりますが、モンシロチョウと比べてスジグロシロチョウの方が暗い場所を好む傾向があります。山地でも見かけることがあります。幼虫の食草はタネツケバナやヤマハタザオなどのアブラナ科の植物です。
ヤマトシジミ
分布 | 本州、四国、九州、沖縄 |
生息環境 | 平地 |
発生回数 | 年5~6回程度 |
成虫が見られる時期 | 4月から11月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | カタバミなど |
亜種 | 本土亜種、南西諸島亜種 |
ヤマトシジミは現代の社会において、最も繁栄している種と言っても過言ではありません。都市部であっても、公園や民家に普通に生息していて、人間社会の中に上手く入り込んでいる蝶です。幼虫は雑草であるカタバミを食草とします。平地では普通に見られますが、山地ではあまり見られません。
北海道には生息しませんが、東北地方から沖縄まで広く分布しています。成虫は年に5~6回程度発生し、4月から11月頃と長い期間成虫が観察できます。
オスは翅の表面が青色に輝くのに対して、メスはグレーであることからオスとメスを見分けることができます。
ツバメシジミ
分布 | 北海道、本州、四国、九州 |
生息環境 | 平地 |
発生回数 | 年4~6回程度 |
成虫が見られる時期 | 4月から10月頃 |
越冬の状態 | 幼虫で越冬 |
食草 | レンゲソウ、シロツメクサなど |
亜種 | なし |
ツバメシジミはヤマトシジミと並んで都市部で最も普通に見られるシジミチョウ科の蝶です。東京都心の公園や民家でも普通に見られます。成虫が見られる時期は4月から10月頃と長いため、普段の生活の中でも見る機会の多い蝶です。
ヤマトシジミは分布が本州から沖縄であり北海道には生息していませんが、ツバメシジミは分布が北海道から九州までであり、北海道には生息していますが、逆に沖縄には生息していません。また、ヤマトシジミの幼虫はカタバミ科の植物を食べるのに対して、ツバメシジミの幼虫はシロツメクサなどのマメ科の植物を食べるという違いもあります。成虫の違いとしては、ツバメシジミは橙斑があることで容易にヤマトシジミと見分けることができます。
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