絶滅した可能性が高いオガサワラシジミ・絶滅した原因など詳しく解説

蝶の生態他
こんにちは!Nao(Xアカウント:@fujimidori123)です!

2020年8月に蝶愛好家にとっては衝撃的なニュースが飛び込んできました。それは近年、小笠原諸島の母島でのみ観察されていたオガサワラシジミが絶滅した可能性が高いというニュースです。環境省ホームページで以下の報道発表がされています。

国内希少野生動植物種・オガサワラシジミ(チョウの一種で小笠原諸島固有種)について、2020年8月下旬に飼育下の全ての個体が死亡し、繁殖が途絶えました。種の保存法に基づく保護増殖事業として実施している生息域外個体群が途絶えたのは初めてのことでした。

環境省ホームページ;https://www.env.go.jp/nature/post_145.html

この記事では、オガサワラシジミが絶滅に至った経緯と原因を詳しく解説します。

オガサワラシジミとは

オガサワラシジミの標本

オガサワラシジミは、これまでに小笠原諸島、父島列島の弟島・兄島・父島、母島列島の母島・姉島で分布が記録されている蝶ですが、近年生息が確認できているのは母島のみです。かつては父島、母島に多数生息していましたが、父島では1980年代前半に激減し、1992年以降、生息が確認されていません。母島でも少数が確認されるのみで、2018年以降、確実な記録がなく、野生絶滅が危惧されています。

小型(全長12~15mm程度)のシジミチョウで、オスのほうがメスよりやや大きい蝶です。年に数回孵化し、冬期の個体数は少ないのですが、年間を通じて見ることができる蝶です。生息地は自然性の高い森林であり、成虫の活動時間については、朝から夕方までの日が差している時間帯です。幼虫の餌はクマツヅラ科のオオバシマムラサキ、クスノキ科のテリハコブガシ、コブガシなどです。

オガサワラシジミ絶滅

絶滅までの経緯

絶滅危惧種のオガサワラシジミについては、小笠原諸島で分布が記録されていますが、外来種のグリーンアノールの影響等により、1990 年代までに父島列島で姿を消し、近年、母島で見られるのみとなったため、関係機関、団体、専門家、地域住民等と、生息域内外での保全対策に取り組んできました。その一環で東京都多摩動物公園と環境省新宿御苑においてオガサワラシジミの累代飼育にも取り組んできましたが、2020年春から個体の有精卵率が急激に低下し、繁殖が困難となり、2020年8月 25 日に飼育していた全ての個体が死亡しました。

  • <保全対策の経緯>
  • 2005年:東京都が多摩動物公園において飼育下での繁殖の取組を開始
  • 2008年:種の保存法に基づく国内希少野生動植物種に指定
  • 2009年:種の保存法に基づく保護増殖事業計画を策定。関係機関と連携しながら、生息状況の調査や外来種対策等の保全対策を開始
  • 2016年:多摩動物公園において、園内施設を使用した交尾に成功し方法を確立
  • 2017年:多摩動物公園において、1年以上の継続した累代飼育にはじめて成功
  • 2018年:公的機関による生息状況調査では母島において個体が確認されなくなる
  • 2019年 10 月:環境省が多摩動物公園から個体を譲り受け、新宿御苑で飼育下繁殖を開始
  • 2020年4月:多摩動物公園及び新宿御苑における有精卵率の顕著な低下
  • 2020年7月:新宿御苑において飼育していた全個体が死亡
  • 2020年7月、8月:母島において個体確認調査を行うが、確認なし
  • 2020年8月 25 日:全ての個体が死亡(多摩動物公園 20 世代目の幼虫)

絶滅の原因

オガサワラシジミの生息を脅かす原因としては、主に以下の原因が考えられます。

  • 外来種のグリーンアノールによる捕食
  • 干ばつや台風による被害
  • 開発による影響
  • アカギ等外来植物の侵入による植生の変化
  • コレクターによる捕獲圧

東京都多摩動物公園と環境省新宿御苑におけるオガサワラシジミの繁殖途絶の原因としては、環境省ホームページによると「生息域外個体群において近親交配による遺伝的多様性の損失が確実に進行し、有害な遺伝子の蓄積(近交弱勢)によって繁殖途絶に至ったと考えられる。」とされています。

兵庫県立大学等による研究結果(2024.7.12公表)

2024年7月12日に、兵庫県県立大学などから「国内で最も絶滅リスクの高いチョウ、オガサワラシジミの繁殖途絶の原因を解明」したという研究成果が発表されました。

遺伝的解析の結果、2015 年以前は遺伝的多様性の減少傾向がさほど顕著でなかったものの、継代飼育が開始された 2016 年以降は世代を追うごとに遺伝的多様性の減少が進行し、繁殖途絶直前の 19 世代目では遺伝的多様性は飼育開始当初の約 2 割程度にまで減少していました。また、遺伝的多様性の減少に伴い、精子数も同様に減少していました。さらに遺伝的多様性の高かった継代飼育開始当初は 80%以上の卵が孵化していましたが、遺伝的多様性の減少した 19 世代目では卵の孵化率は 10%以下にまで減少していました。生物は、もともと生存や繁殖に悪影響を及ぼす突然変異 (有害突然変異) を多数持っています。集団が健全であれば問題ないのですが、近親交配が進行して遺伝的多様性が減少するとそれが発現し、繁殖形質に悪影響を及ぼすことがよく知られています (近交弱勢)。オガサワラシジミにおいても近交弱勢が生じ、繁殖途絶に至ったと結論付けられました。
それでは、本来何個体を生息域外保全の創始個体に使用するべきだったのでしょうか。2015 年以前の遺伝的多様性の 97.5%を保持するには、少なくとも 26 個体を創始個体とすべきだったと計算できました。オガサワラシジミのケースではもともと飼育技術開発のために得られた個体が創始個体となっていたことや、野外で個体が見つからなくなり、野生個体の補強 (継代飼育群に別の個体を新たに加えること)ができなくなったなどの不運が重なり、遺伝的多様性の確保に十分な個体を得ることができなかったと考えられます。

2024.7.12兵庫県立大学HP(https://www.u-hyogo.ac.jp/news/pressrelease/20240712press.html

オガサワラシジミ絶滅まとめ

高度経済成長期に多くの生物が絶滅する中で、日本では絶滅した蝶はこれまでにいませんでした。もしオガサワラシジミが絶滅したとすると、日本の蝶で絶滅第1号ということになります。

現状としては、近年唯一生存が確認されていた母島でも2018年以降は記録がなく、野生でも絶滅している可能性は十分にあります。この大変残念な教訓を活かして、環境省はホームページで「種の保全全般に活かすべき教訓」として以下3点を挙げています。

(1)生息域内保全が重要であることを強く再認識する
(2)効果的な生息域外保全のあり方・手法を整理する
(3)保護増殖事業の目標の設定と共有、具体的な実施

日本産の蝶の絶滅第2号が生まれないため、この教訓を次に活かしていくことが重要です。

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