ヤマトシジミの原子力発電所事故による放射能の影響

蝶の生態他
こんにちは!Nao(Xアカウント:@fujimidori123)です!

2011年3月11日に発生した東日本大震災による福島第一原子力発電所事故の後、琉球大学の研究チームがヤマトシジミへの生物学的影響に関する論文を発表し、世間に大きな影響を与えました。

この論文では、放射性物質拡散によるヤマトシジミへの影響を調査し、被爆個体やその子供・孫の世代の個体で形態異常が観察されることが確認されました。

この記事では、論文の内容について解説をします。なお、はじめに断っておきますが、この記事は世の中に公表されている研究結果を紹介しているだけで、原発の推進・反対の意図は全くありません

研究内容の概要

実験した内容

琉球大学が実施した実験は以下4つです。

  • 関東から東北地方の被曝したヤマトシジミのサンプリングとその子世代や孫世代まで沖縄で飼育して異常の有無の調査を実施。
  • 事故後半年において、関東から東北地方のヤマトシジミのサンプリングとその子世代の形態等の異常の有無を沖縄で飼育して調査を実施。
  • セシウム線源を用いた沖縄産ヤマトシジミへの外部放射線照射による異常形態の再現実験を実施。
  • 福島地方より採集した食草を用いた沖縄産ヤマトシジミへの内部被曝実験による福島環境の再現実験の実施。

研究から得られた結果

調査から以下の結果がえられました。

  • 被曝個体とその子供や孫の世代の個体で、さまざまな形態異常が観察されました。その傾向は放射線量の上昇に応じて、また原子力発電所に近づくにつれて上昇していました
  • 2011 年 5 月に採集した福島地方の個体では、雄個体の翅サイズが他地域よりも小型化するとともに、線量に応じたサイズの縮小傾向が観察されました。
  • 5 月および 9 月の子世代では、福島第一原子力発電所に近接する地域の個体において、蛹になるまでや羽化までの発育期間が延長される傾向が見られました。
  • 孫世代では子世代と同様の形態異常が出現し、異常が遺伝することがわかりました。
  • 沖縄産のヤマトシジミに放射線照射を実施したところ、福島地方の個体と同様な形態異常が観察され、線量に応じた生存率の低下が認められました。
  • 沖縄産のヤマトシジミに、福島地方より持ち帰った放射性物質の混入した食草であるカタバミを餌として与える内部被曝実験を行ったところ、食草に混入していたセシウムの量に応じた生存率の低下が確認され、さまざまな形態異常個体が出現しました

研究に対する疑問

2016年10月15日福岡県福岡市のヤマトシジミ

ヤマトシジミは東北地方では異常個体がよく見られるのではないか?

ヤマトシジミの北限個体で斑紋変化以外の形態異常が増加しているという報告は今のところありません。また、今回の実験でも、緯度上昇と異常率との間に関連性は見られないことから、北の個体群ほど異常率が高いという認識は誤りであることがわかります。

また、ヤマトシジミの研究において、東北地方全体について異常率が高いことを示した研究報告はありません。ヤマトシジミの生息北限である青森県深浦町において多くの色模様異常型が出現した現象が2010 年に発表されましたが、この現象は、深浦町というごく限られた地域のみで観察された非常に特別な現象です。同じくヤマトシジミの生息域の最北限である青森県八戸市や深浦町の南方に位置する秋田県北部においては、異常個体の出現は報告されておりません。

青森県深浦町の異常と福島個体の異常の違いは?

深浦町の個体群で出現する異常は、決まった斑紋変化が出現することがわかっています。これは蛹が4℃以下程度の低温状態にさらされた時のみ生じるため、夏季に採集された福島地方のヤマトシジミでは考えられません

また、福島地方の個体では深浦町の個体群とは全く異なった多様な色模様の異常個体や翅以外のさまざまな形態異常が出現しています。そのため、福島地方のヤマトシジミにおいて観察された形態異常は、低温とは全く異なった原因により発生したものと考えられます。

これらのことから、福島地方の蝶に観察されたさまざまな異常の原因は、深浦町の個体群とは全く異なるものだと考えられます。

異常は地域変異なのでは?

斑紋の異常の他にも、翅や脚、触角、複眼といった器官においても形態異常が確認されています。また、子世代や孫世代において著しい稔性(次世代を残す能力)の低下が観察されています。そのため、これらの異常および性質が地域変異であるとは考えにくく、特殊な外的要因の変化を反映したものである可能性が高いと考えられます。

サンプル数は十分なのか?

今回の実験では、合計 5,942 個体のヤマトシジミを調べており、得られた結果についても、全て統計的に有意な結果です。

まとめ

この記事は、原発の推進派だとか反対派といったことは関係なく、純粋に研究から得られた公表されている結果をほぼそのまま紹介しました。また研究の続報があれば随時更新をしていきたいと考えています。

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